■ 象牙質う蝕には謎が多い
象牙質う蝕は、いまだ謎が多く様々な研究が行われています。
象牙質はエナメル質とは異なり、有機質であるコラーゲンを約20%程度含んでいます。すなわち象牙質う蝕の進行には「脱灰による無機質の溶解」と「有機質の損失」を伴います。
また部位で異なる象牙質の「質」(歯冠部、歯頸部、根部)、加齢や糖化による象牙細管の変化なども象牙質う蝕を考える上で重要な因子です。
■ スキャフォールド・足場としてのコラーゲン
In vitroでは、ミネラルを取り込み成長させるスキャフォールドとしてのコラーゲンの役割は重要と考えられており、細胞外マトリックスが象牙質の機能と物性を回復するための鍵であることが報告されています※10。
■ コラーゲン劣化とフッ素の関係
現在、象牙質う蝕予防に対するスタンダードな見解はありませんが、前述の有機質(象牙質コラーゲン)の劣化とその予防に関連したフッ素の可能性についてご紹介します。
象牙質コラーゲンを分解する酵素としてMMPs(マトリックスメタロプロテアーゼ:タンパク分解酵素)がよく知られていますが、MMPsに対するインヒビター(阻害因子)としてフッ素イオンが機能するという報告があります。
■ In vitroでは高濃度フッ素がMMPsを阻害
M.T.Katoらによると、高濃度フッ化物がMMP-2、MMP-9を阻害(フッ素濃度5,000ppmで不可逆的、250-1,500ppmで可逆的に阻害)することが報告されています。本研究はin vitroにおける検証ではありますが、高濃度フッ素がMMPsの活性を阻害する可能性について報告された初めての論文です※11。
■ 臨床への拡大解釈は危険
臨床は実験環境と大きく異なるためMMPsを阻害することが象牙質う蝕の発生・進行を予防する確証はありません。
ただ、米国歯科学会が
・根面う蝕に対して5,000ppmフッ素ゲル
・全歯面のう蝕への非修復処置でとして5%フッ素バーニッシュ
の使用を推奨しています※12。
このことからも、今まで用いることができなかった22,600ppmのフッ素を徐放するバーニッシュを活用できることは、臨床家にとって非常に価値あることですし、また同時に、象牙質う蝕に対するバーニッシュ塗布による臨床結果が基礎研究を押し上げる可能性も秘めていると感じ、ワクワクします。
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■ 参考文献
※10. Bedran-Russo AK, Zamperini CA. New Preventive Approaches Part II: Role of Dentin Biomodifiers in Caries Progression. Monogr Oral Sci. 2017;26:97-105. doi: 10.1159/000479351. Epub 2017 Oct 19.
※11. Kato MT, Bolanho A, et al. Sodium fluoride inhibits MMP-2 and MMP-9. J Dent Res. 2014 Jan;93(1):74-7. doi: 10.1177/0022034513511820. Epub 2013 Nov 6.
※12. Slayton RL, Urquhart O, et al. Evidence-based clinical practice guideline on nonrestorative treatments for carious lesions: A report from the American Dental Association. J Am Dent Assoc. 2018 Oct;149(10):837-849.e19. doi: 10.1016/j.adaj.2018.07.002.