■ 経歴等
出身大学:北海道大学歯学部歯学科(2003卒)
出身大学院:大阪大学歯学研究科分子病態口腔科学専攻(2007修了)
■ 現在の肩書:
大阪大学歯学部附属病院口腔総合診療部(顎口腔総合医療学) 助教日本総合歯科学会 認定医、指導医電子顕微鏡技士(2級)リサーチマップURL
■ 研究キーワード
総合歯科学、糖化、糖尿病、う蝕、超微形態学、歯髄内石灰化、臨床形態学
■ 研究に関する概要
研究テーマは、象牙質の加齢や疾患に伴う変化を研究しています。象牙質は、骨のように吸収添加を繰り返すこともなく、発生してから象牙質添加による歯髄腔の狭小化以外の大きな形態変化が起こらない組織です。変化しないが故に、年輪を重ねるように年と共に沈着していく物質があり、その中の一つが、我々の着目している「糖化最終産物(AGEs)」といわれる物質です。糖と象牙質を構成するコラーゲンとが存在することでメイラード反応という不可逆性の反応が起き、コラーゲン分子間に架橋を形成します。コラーゲンにおける糖化では「褐色化」「脆性」「蛍光性」といった特徴が認められ、歯の加齢変化である色調が変わるということや、脆くなることとも関連があると考えています。象牙質の加齢研究は、添加象牙質の変化に関するものが多く、象牙質を構成する基質に着目したものはあまりありません。近年行った象牙質内の加齢関連物質の評価法(Miura et al, 2014, Fukushima et al, 2015)を応用して、加齢に伴って増加する糖化物質がう蝕象牙質にも増えていることがわかりました。これが、う蝕部位の着色(加齢により象牙質の色調が分かる理由)や脆性化(歯がもろくなる理由)、う蝕感受性の低下(蝕の進行が遅くなる理由)といった臨床にも関連する加齢変化と関係があることもわかり現在より詳細な解明を進めています。さらに糖化に関連して、糖尿病患者に好発する異所性の石灰化(血管の硬化など)と関連して歯髄内にできる結石の研究も行っています。これでもか!というくらいマニアックで臨床には役に立たなさそうな研究ですが、レプチン受容体を壊すことで2型糖尿病を発症するラットを用いて行った研究で、歯髄内の石灰化が起こっている部位に先ほどのAGEsや関連するレセプターの発現が認められ、糖化と石灰化に関連性があることも明らかになってきました。石灰化部位に発現している物質を詳細に調べて、将来的には、AGEsを効果的に組織に添加することで骨や象牙質の石灰化をコントロールすることができると考え、現在、生体為害性の少ない覆髄材や骨添加材への応用ができないかと模索しています。臨床では「百害あって一利なし」の糖尿病ですが、研究の視点から行くと面白い現象がいたるところで起こっており、循環器内科の先生方がこぞって糖尿病研究しているのが分かる気がします。あと、歯科とは離れますが、研究技術をもっともっと若い世代に伝える仕事も手伝わせていただいています。関西一円の大学などで電子顕微鏡を使う研究者の集まりがあり、「親子電顕教室」というのを年に2回開催(夏、冬)しています。小学生を中心に「自分が見たいもの」を持ち寄ってもらい電子顕微鏡や元素分析装置を用いていろいろな自由研究のお手伝いをさせていただいています。様々な専門分野(医学、歯学、農学、細菌学などなど)の先生方とともに純粋な疑問を突き付けてくる子供たちから刺激を受けながら、「見ることの素晴らしさ、見て解ることの面白さ」を子供世代に伝えていけたらと思っています。
■ 臨床家の先生方にお伝えしたいこと
大学では、臨床や研究と共に研修医や大学院生の教育も行っています。理にかなった診療を行うには、自分が納得することも大事ですが、患者や学生などが「なるほど!」と思っていただけるような根拠のある治療を行うことも大切です。実際に臨床に関わっていると、「このように習ったからこうしている」といった側面がありますし、自分の手技を見直してみてもそのような部分はたくさんあります。「そういった部分が正しいのかどうか検証する手段として研究があり、研究で得た理論の実践として臨床がある」そういった視点から、シームレスな着眼点から臨床と研究、その先にある学生教育などを考えています。しかし、臨床をしつつも膨大なテーマがある臨床世界から実際に「面白い」と思う情報(研究ネタ)を見つけるのはなかなか難しく、本来背中合わせであるはずの研究、臨床、教育がなかなかリンクしない状態が多いのも事実です。歯科診療を通して何か面白いこと、よくわからない現象がありましたら「こんなのが電子顕微鏡で見られたら面白いと思うけど!!?」といった感じで、なんなりと声かけていただければ一緒に面白い世界が見えてくるかもしれません。“Seeing is Believing” 何卒よろしくお願いします。